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Rock is(ロックイズ)

但野正和が「闘う男」をテーマに綴る月イチ連載コラム

但野正和の「闘いはワンルームで」

2017/8/23

第1回:そんな感じだな

なんとなく。札幌で最初に出来た友達は、ユータなんじゃないだろうか。
本当はそうじゃないかもしれないし。関の方が先だったような気もしてくる。順番なんて別にどうでもいいと思ってたから全く思い出せないんだけど。でもなんか、ユータだったらいいんだよなあ。

専門一年。
教室に向かうエレベーターの中。今日も校舎が全焼していないことに肩を落としながら、イヤホンを耳の中で爆発させていた。
エレベーターにギッシリと敷き詰まったチャラい野郎どもの中に、見覚えのあるロゴマークを見つけた。奴は背中にピザオブデスのでかいロゴが描かれた、ハイスタのTシャツを着ていた。ターゲットロックオン。

エレベーターを降りて、教室に向かう。ターゲットは友達複数名と会話をしていた。人がいては話しかけられない。ターゲットが1人になる瞬間を狙っていた。
休み時間、後ろを尾行。僅かな隙を見逃さなかった。

俺はさも、たまたまそこに居合わせ。たまたま目が合い。たまたまそのTシャツに今気付いて、思わずとっさに声をかけるように。
「パンクロックが好きなのか」と、緊張しながら声を出した。

まだ10代だった。
話すことは海ほどあった。お互いのこれまでの音楽史を教えあった。奴もギターを弾くということを知った。
お互い、今思えばとてもぬるい温度で、バンドをやったりしていた。
奴が買ったギターは多分全部知ってるし。組んだバンドもひと通り知っているはず。そして、奴も同じ様に俺を知っている。

俺はのちに、最終少女ひかさというバンドを作った。
そしてユータに「ひかさは解散することは無い。もし仮に全員辞めて1人になっても、この名で音楽を続けてやる」
蒼き日の俺は、そんなことを言い放ち。そして、それから数年後の蒼き日に、最終少女ひかさは解散した。

ロックイズを御覧の皆様。はじめまして。但野正和と申します。三十路のフリーターです。
コラムの連載が始まることになりました。テーマは「闘う男」です。大好物です。
「俺はこんな風に闘ってるんだぜ」的な自己PRコラムであれば続けられそうにないのですが。「俺が触れた闘う男たち」的なレポートコラムなので。
つまり、竹原ピストルでも俺の父親でもロッキーでもマダオでも前田太尊でもさくらももこでもアキラ100%でもトキワ荘の住人でもももクロでも阿部寛でも8マイルでも古川未鈴でも黒坂正二郎でも西村賢太でもパンクドランカーズでもタイタニックでも。

あー。楽勝。いける。うん、いいな。楽しそうだ。(少なくとも俺にとっては)

で、第一回目は何を書こうか考えまくって。考えまくって。最終少女ひかさしか無いと思った。
解散したバンドのことを振り返るとか。引きずってるとか。頼ってるとか。逆にココで文にすることで、語るのは最後にするとか。自分の中で区切りをつけるとか。
なんの意味も理由も全く無い。あるわけないだろ。余裕で気にしてない。
ただ俺は最終少女ひかさを愛していて。誰が見たって、但野正和イコール最終少女ひかさだろうと思ったから。現時点ではな。なめんじゃねーぞ。

が、しかし。
いざ闘いの歴史に触れようと思っても、なにもないことに気付いた。
確かに、5人で闘っていた。
ユータに話した様に、俺は1人でもやってやると思っていた。
三度のメンバーチェンジの末、ベースにコウタが決まってすぐに。
「次に誰かが欠けた時には解散にする」ことを決めた。そのことは、確かメンバーにも伝えた様に記憶している。
漠然と「闘う」という言葉が好きで。結構な頻度で使用してきたように思う。
言葉について考え出すと分からなくなるもんだ。
確かに俺たちは、5人で闘っていた。

 

例えば

 

初めて自分たちのCDがタワレコに並ぶことが決まり。でも何故か、俺は得体の知れない不安に襲われていて。
深夜、しゅんきと近所を歩きながら。「この先に何があるのか」というような不安を口にすると。「最高なことしかないっしょ~」と、明るく言われた。

ライブ後にステージから捌けた後、自分のプレイに納得いかなければ。鍵盤を抱えたまま号泣したり。何故か謝ってきたり。1人で怒ったりしていた。
しかし撮影された写真を見ると、ライブ中のラモネスはいつも笑顔だった。

三鷹の銭湯。冷静な場で熱い話をするのが苦手でも。露天風呂には、男の精神を熱くさせる効能がある。しゅんきとユウくんとタケボーは中で身体を洗っていた。
俺とコウタは、縁の岩に腰掛け、足だけを湯船で温めながら。対バンの悪口と、今までの夢と、これからの夢の話をしていた。「もしいつか、解散したら困るなあ」とコウタは言い。「解散しねえから大丈夫だ」と俺は言った。

最後のワンマンツアー。ライブ後のユウくんのお尻は、いつも汗でビチャビチャだった。
本当に、漏らしたみたいにビッチャビッチャだった。

 

そんな感じかなあ

 

但野正和

ユータから借りたままのギター。リッケンバッカーのニセモノ。いつか人前に立たせてやりたい。